「太陽を喰う/夜を喰う」

村津蘭「太陽を喰う/夜を喰う」川瀬慈編「 あふりこー重奏するフィクション/偏在するアフリカー」(新曜社2019年11月出版) 所収
概要 妖術師は超常的な力を用いて人を害する存在として、アフリカ諸国において広くその存在が信じられている。ベナンでは、妖術師は親族の中に潜み、普段は人間の姿で生活しているが、夜には霊として妖術師の集会に参加し、誰を食べるかを議論するものとして扱われている。研究者は妖術師を基本的に「想像的なもの」と扱うことが多いが、人々にとっての妖術師は実際に存在し、日常の行動を規定する存在である。妖術師を「想像的なもの」として分析のために距離を置く民族誌では、妖術の物語に巻き込まれながら生きる現実のあり様や、そこにおける情動を伝えることができないという限界がある。そこで、本編ではベナンにおける「妖術師」を、研究者目線(「太陽を喰う」)と同時に、妖術師目線(「夜を喰う」)で描き出した。後者は、「妖術師という視点の小説を一緒に書く」という形でベナン人の知り合いと協働し紡ぎだしたものである(最終部の「附言」参照)。本編は、民族誌家自身に対して再帰的な問いを投げかけたライティングカルチャー・ショックや、人々の語りを「真剣に捉える」ことを提唱する近年の存在論的転回という人類学的な潮流を汲んだ、民族誌的フィクションとして執筆した。